「カメラマンになろう」と決めて始めたわけじゃない、と安部さんは言った。
コロナ禍の助成金でカメラが買えた。
せっかくだから学んでみよう。
撮れるようになったら、応援している人たちの役に立てるかもしれない。
そのくらいの気持ちで始まった話が、1年間で107人を無料撮影する修行につながって、今では女性起業家専門のポートレートカメラマンとして仕事が回っている。
どこで踏み出して、どこでつまずいて、どうやって乗り越えてきたのか。
プロになるまでの5年間を、最初から話してもらった。
この記事でわかること
- 安部さんがカメラを始めたきっかけ
- 1年間・107人の無料撮影修行の話
- 最初の有償撮影と、単価の上げ方
- スタジオ撮影でぶつかった壁と、乗り越え方
- 仕事が増えた転機
PROFILE
安部隆志(あべ・たかし)
東京都大田区在住。女性起業家専門のポートレートカメラマン。プロカメラマン歴5年目。国際ポートレート協会(IPA)会員インストラクター。不動産事業も並行して運営。
最初のきっかけは、コロナ禍の助成金だった
安部さんにカメラを始めたきっかけを聞くと、少し笑いながらこう答えた。
コロナの助成金でカメラが買えたのがきっかけなんですよ。3分の2か4分の3の補助が出て。短期間の募集だったんですけど、申請したら通って。せっかく買ったんだから学びたいなと思って。
安部隆志さん
ドラマチックなきっかけじゃない。でも、その前に積み重ねてきたものがあった。
鈴木:カメラを買う前から、撮影に興味を持った出来事はありましたか?
鈴木賢一朗(インタビュアー)
2010年ごろから、女性起業家さんやママ起業家さんを応援する活動をしていたんですよ。共著で20人・25人の女性起業家さんだけで本を出すプロデュースをしたりとか。その流れで、撮影が自分でできるようになったら、もっと応援できるなと思って。
安部隆志さん
「写真で食べたい」じゃなく、「応援の手段としてカメラを使いたい」という動機だった。
カメラはあくまで道具で、ゴールはもともと持っていた。
座学3回、そして1年間の実地訓練へ
カメラを手にした安部さんは、ビジネスパートナーでもあるママ起業家の師匠から座学を受けた。
絞り、露出、カメラの基本操作。全3回。
でも、知識を得ただけでは撮影はできなかった。
なんかドタバタして、撮影する時間がなくて。そのうち師匠から「1年間の計画で女性起業家さんを月2人ずつ撮っていきましょう、同伴して指導しますよ」というお話をいただいて。実地の訓練ですね。
安部隆志さん
師匠に同行してもらいながら、実際に女性起業家を撮影する。その場でフィードバックをもらう。
そういう形の「修行」が始まった。
「88人撮ろう」と決めたら、気づいたら107人になっていた
安部さんはそこで、一つの決断をする。
修行として女性起業家・ママ起業家を完全無料で撮影する。撮った写真はSNSでタグ付けして投稿してもらう。それを1年間続けよう、と。
最初は88人撮ろうと決めていたんですが、最終的に107人になりました。北は北海道から、南は四国まで行って撮ってきました。
安部隆志さん
鈴木:自費で全国を飛び回ったんですね。
鈴木賢一朗
そうですね。撮影した写真をその方がSNSでシェアしてくれるようになっていたので、交流会のコミュニティの中で、自分の名前と写真が少しずつ広がっていく設計でした。
安部隆志さん
88人の予定が107人になったのは、来てくれる人がいたから。断れなかったし、断りたくもなかった。
1年間の修行を終えたとき、師匠から「GO」が出た。
有償化できる——そのひと言がプロへの第一歩になった。
最初の有償撮影は「5,555円」。そこから少しずつ上げていった
鈴木:最初にお金をもらった撮影というのは、どんな仕事でしたか?
鈴木賢一朗
異業種交流会で出会った女性起業家さんに、「今まで無料でやってたんですけど、この企画価格でやります」という形でスタートしました。確か5,555円だったかな。そこから8,888円とか、少しずつ上げてきてる感じですね。
安部隆志さん
鈴木:縁起のいい数字でスタートしたんですね(笑)。
鈴木賢一朗
有償でいえばそれが1件目ですね。
安部隆志さん
最初から高単価を設定したわけじゃない。実績と信頼を積み重ねながら、少しずつ上げていった。
今の平均単価は3万3,000円。撮影時間は60〜90分。5,555円から始まって、ここまで来るのに5年かかった。
壁は、スタジオに入ったときに来た
107人を撮り切って、有償化もできた。それでも足りないものがあった。
鈴木:活動を始めてから、一番つまずいたことがあれば教えてください。
鈴木賢一朗
最初の1年間はアウトドアでの撮影が中心で、本当の意味の光の原理をちゃんと学んでいなかったんです。師匠から口頭で教えてもらったことをやっていたんですが、感覚でやってたというか。スタジオに入ったときに、光の方向性とか、ライティングのコントロールのところでつまずいて。
安部隆志さん
屋外なら自然光でなんとかなる場面も多い。
でもスタジオは違う。ストロボをどこに置くか、どの角度から当てるか、全部自分で決めないといけない。感覚で積み上げてきた技術では、太刀打ちできなかった。
鈴木:屋外からスタジオに移ったときに、壁を感じたということですね。
鈴木賢一朗
そうですね。ライティングの基本的なところが、まだ定着していなかったというか。そこが最初の課題でした。
安部隆志さん
お金を払って、師匠にもう1年つきあってもらった
その壁を乗り越えるために、安部さんがとった行動はシンプルだった。
師匠に月謝を払って、1年間のスタジオライティング訓練をお願いした。
スタジオ代は私が出して、モデルの女性起業家さんには無料で来てもらって、師匠には月謝をお支払いして指導していただく、という形で。費用対効果を先に考えるんじゃなく、そのレベルの人に先に学んでしまおうという感じでした。
安部隆志さん
自腹でスタジオを押さえて、モデルを募って、師匠に見てもらう。月謝も自分で払う。
「うまくなってから有償化しよう」じゃなく、「先に投資して、そのレベルに追いつく」という順番で動いた。
1年後、その師匠から紹介されたのが国際ポートレート協会(IPA)だった。
師匠がその協会で学んでいたことを私に教えてくれていたんです。1年経ってからご案内があって、入会しました。そこでさらに本格的に学んで、今で3年ぐらいスタジオライティングを続けています。
安部隆志さん
鈴木:壁を乗り越えられたのは、師匠への学びが大きかったということですね。
鈴木賢一朗
完全に定着したのは、協会に入ってしっかり学んでからだと思います。
安部隆志さん
仕事が増えたのは、107人の口コミが時間差で動き始めたから
鈴木:今、仕事が安定してきた転機というか、これが大きかったという出来事はありましたか?
鈴木賢一朗
交流会で1年間に100人以上撮影したことで、その方たちが写真をSNSで拡散してくれていて。もともと私は不動産をやっている人、交流会をやっている人という見え方をしていたんですが、いつの間にかカメラマンになったんだね、という認知が急に上がったんです。そこで「有料でもお願いしたい」という声がパラパラ出てきて。
安部隆志さん
鈴木:撮った写真がSNSで広がって、安部さんの写真いいね、撮ってもらいたいっていう口コミが生まれていったということですね。
鈴木賢一朗
そうですね。あとは、撮影の前に表情筋トレーナーさんに30分お願いして、笑顔のトレーニングをしてから撮るというのをやっていて。それも口コミになっていったみたいで。
安部隆志さん
写真を撮られることが苦手な人は多い。安部さん自身もそうだったという。
「カメラを向けられると表情が固まる」経験をしてきたから、撮影前に笑顔を引き出す仕掛けを作った。それが「他のカメラマンと違う」という評判につながっていった。
仕事が増えた転機、まとめると
- 修行期間の107人撮影がSNSで拡散→時間差で認知が広まった
- 「不動産の安部さん」から「カメラマンの安部さん」へ認知が変わった
- 撮影前の表情筋トレーニングという演出が、口コミのタネになった
- 「有料でお願いしたい」という声が自然に生まれてきた
「できるかどうか」より「なりたいかどうか」で動いてきた
安部さんの5年間を振り返ると、一つ共通していることがある。
損得を先に計算するより、「やりたいかどうか」で動いてきたということだ。
助成金でカメラを買ったとき。1年間107人を無料で撮り続けたとき。師匠に月謝を払って学んだとき。そのどれも、「これで仕事になるか」より先に、「自分はこれをやりたいか」があった。
できるかできないかで考えるのをやめた時期がありまして。コーチングで教えてもらったんですけど、「なりたいかなりたくないか」で判断する、って。先に踏み出して、そのレベルの人に学んでしまう。ゴールから逆算して今動く。そういう考え方になってから、ワクワクするようになりました。
安部隆志さん
今でも師匠から怒られることはある。うまくいかない日だってある。
それでも安部さんはこう言った。
将来、素敵な笑顔の写真が撮れるようになってるよ、って過去の自分に伝えたいですね。今のプロセスを楽しもうね、って。
安部隆志さん
この記事のまとめ
- ▶ コロナ禍の助成金でカメラを購入。女性起業家を応援する手段として撮影を始めた
- ▶ 1年間で107人を無料撮影。SNSタグ付けで認知を広げる設計だった
- ▶ 最初の有償撮影は5,555円から。実績を積みながら単価を上げていった
- ▶ スタジオ撮影でつまずいたとき、師匠に月謝を払って1年間学び直した
- ▶ 口コミが時間差で広がり、「カメラマンの安部さん」という認知が自然に生まれた
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